11月23日は「勤労感謝の日」ですね。この祝日の読み方は「きんろうかんしゃのひ」ですが、多くの人が「働く人に感謝する日」となんとなく理解している一方で、その本当の意味や由来について深く考える機会は少ないかもしれません。
カレンダーでこの日を見ると、「ああ、休日だ」と嬉しくなる反面、お正月やクリスマスのような明確なイベントがないため、どう過ごすべきか迷う方もいらっしゃるかもしれませんね。私自身も、以前は単なる「年末前の貴重な休み」くらいにしか考えていませんでした。
しかし、なぜ11月23日なのでしょうか。実は、この祝日の由来は日本古来の「新嘗祭(にいなめさい)」という大切な収穫祭にあります。戦後の祝日法制定によって現在の形になりましたが、その背景を知ると祝日の見方が大きく変わってきます。
また、当日は何をする日なのかという具体的な過ごし方、子どもに説明する際の簡単な伝え方、決まった食べ物があるのか、そしてよく混同されがちなアメリカの感謝祭との違いは何か、といった具体的な疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
この記事では、「11月23日 勤労感謝の日」の基本的な意味や読み方はもちろん、その起源である新嘗祭との深い関係から、戦後のGHQによる歴史的な変遷、そして現代の私たちにとっての意義まで、詳しく掘り下げていきます。
- 勤労感謝の日の法律上の意味と「新嘗祭」という起源
- 11月23日に固定されている理由(ハッピーマンデー対象外)
- 感謝祭やメーデーとの根本的な違い
- 家族での過ごし方や子どもへの簡単な伝え方
本記事の内容
11月23日 勤労感謝の日の意味と読み方の基礎
まずは、「勤労感謝の日」という祝日の核心に迫る基本的な情報から整理していきましょう。「勤労感謝の日」とは、法律でどのように定められ、どのような意味が込められているのでしょうか。
そして、多くの人が疑問に思う「なぜ11月23日に固定されているのか?」という日付の謎、その鍵を握る「新嘗祭」との深い関係について、詳しく掘り下げていきます。

法律上の定義とハッピーマンデー対象外の理由
私たちが「祝日」として認識している日は、すべて「国民の祝日に関する法律」(通称、祝日法)という法律によって定められています。「勤労感謝の日」も、もちろんこの法律に基づいています。
この法律が制定されたのは、戦後間もない1948年(昭和23年)のことです。
祝日法に定められた「3つの意味」
祝日法の第二条では、勤労感謝の日を次のように定義しています。
「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがひに感謝しあふ」
(出典:e-Gov法令検索『国民の祝日に関する法律』)
この一文、読んでみると非常に味わい深いですよね。単に「働く人に感謝する」と書かれているわけではなく、3つの独立した要素で構成されていることがわかります。
- 「勤労をたつとび(尊び)」
これは、働くという「行為そのもの」を重んじ、尊重することを意味します。
「勤労」とは、辞書によれば「心身を働かせて仕事に励むこと」です。
その行為自体が尊いものである、という価値観が示されています。 - 「生産を祝い」
これは、労働によって生み出された「成果」を祝うことを意味します。
私たちが日々消費している食料品や工業製品といった「モノ」だけでなく、医療、教育、交通、エンターテイメントといった「サービス」も、すべて誰かの労働によって生み出された「生産物」です。
私たちの生活がこれらの成果によって支えられていることを認識し、その豊かさを祝賀する、という意味が込められています。 - 「国民たがひに(互いに)感謝しあふ」
感謝のベクトルが一方通行ではない、という点です。
例えば「労働者が非労働者に感謝される日」なのではなく、働いている人も、家庭を守る人も、学ぶ学生も、地域に貢献する人も、お互いの存在や活動によってこの社会が成り立っていることを認め、互いに感謝を捧げ合う日である、と定義されているのです。
このように法律の条文を読み解くだけでも、「勤労感謝の日」が非常に民主的で、相互扶助の精神に基づいた祝日であることがわかりますね。

ハッピーマンデー対象外の、動かせない理由
さて、次に「なぜ11月23日は月曜日に移動しないのか?」という疑問です。
ご存知の通り、2000年代から「ハッピーマンデー制度」が導入され、成人の日や海の日、敬老の日、スポーツの日(旧体育の日)などが、特定の日付から「〇月の第〇月曜日」へと移動しました。これは、3連休を創出しやすくすることで、国民の余暇を充実させ、観光などの経済活動を活性化させる目的がありました。
しかし、勤労感謝の日は11月23日に固定されたままです。
なぜでしょうか?
それは、「11月23日」という日付そのものに、この祝日のアイデンティティの根幹に関わる、動かすことのできない歴史的な意味が込められているからです。
その答えこそが、この祝日の起源である「新嘗祭(にいなめさい)」です。
ハッピーマンデーの対象外となっている他の祝日(元日、天皇誕生日、憲法記念日、文化の日など)も同様に、その日付自体に強い歴史的・文化的意義があるものがほとんどです。勤労感謝の日は、単に「勤労」というテーマだけで選ばれたのではなく、「新嘗祭」という日本の稲作文化と深く結びついた伝統儀式が、歴史的にこの日に行われてきたという背景に基づいているのです。
この「新嘗祭」については、後ほど「起源」のセクションで詳しく解説します。
2025年以降の振替休日カレンダー
勤労感謝の日は11月23日に固定されていますが、祝日が日曜日にあたった場合は、もちろん「振替休日」の対象となります。
祝日法では、「国民の祝日」が日曜日にあたるときは、その日後においてその日に最も近い「国民の祝日」でない日を休日とする、と定められています。簡単に言えば、日曜日と重なった場合、翌日の月曜日がお休みになるということですね。
近年でいうと、2025年の11月23日は日曜日です。そのため、翌日の11月24日(月)が振替休日となり、土曜日からお休みの方は11月22日(土)〜24日(月)の3連休となります。
年末の忙しい時期を前にした貴重な連休となりそうですね。
ここで、2024年から2028年までの勤労感謝の日の日付と曜日、そして振替休日の有無を一覧表にまとめてみました。スマートフォンなどで見えにくい場合は、表を指で横にスライドさせてご確認ください。
| 年 | 日付 | 曜日 | 振替休日の有無 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年 | 11月23日 | 土曜日 | なし | 土日休みの方は実質2連休 |
| 2025年 | 11月23日 | 日曜日 | あり(11月24日 月曜日) | 3連休 |
| 2026年 | 11月23日 | 月曜日 | なし(当日が月曜日) | 3連休 |
| 2027年 | 11月23日 | 火曜日 | なし | 月曜日を休めば4連休 |
| 2028年 | 11月23日 | 木曜日 | なし | 金曜日を休めば4連休 |
※こちらは本記事作成時点(2025年11月想定)での情報に基づいています。将来的に祝日法が改正された場合はこの限りではありませんので、最新の情報は内閣府の公式サイトなどでご確認いただくことをお勧めします。
こうして見ると、2025年、2026年と2年連続で3連休になるのは嬉しいですね。一方で2027年(火曜)や2028年(木曜)は、いわゆる「飛び石連休」となり、間の平日をどう過ごすか(または有給休暇を取得するか)が話題になりそうです。
起源は新嘗祭。GHQとの関係とは
さて、先ほどから何度も出ている「新嘗祭(にいなめさい)」という言葉。これこそが、勤労感謝の日を理解する上で最も重要な鍵となります。
なぜ「勤労」の祝日が、「収穫」の秋である11月23日なのでしょうか。その歴史的な変遷を詳しく見ていきましょう。
日本の根幹をなす収穫祭「新嘗祭」
勤労感謝の日のルーツは、日本の古代から続く宮中祭祀である「新嘗祭」にあります。この儀式は「しんじょうさい」と呼ばれることもあります。
「新嘗祭」の「嘗」という漢字は「なめる」「味わう」という意味を持ちます。「新(にい)」は新しい穀物、つまりその年に収穫された新米を意味します。
つまり「新嘗(にいなめ)」とは、その年に収穫された新しい穀物をまず神々に捧げ、それを天皇自らも味わう(嘗める)という、収穫感謝の儀式を指します。
古来、稲作を中心とする農業国家であった日本において、五穀豊穣(ほうじょう)をもたらした神々(天照大御神をはじめとする天神地祇)に感謝を捧げる、最も重要なお祭りの一つでした。
その歴史は非常に古く、『日本書紀』にも記述が見られるほどです。飛鳥時代にはすでに国家的な祭祀として確立されていたと考えられています。一時期、戦乱(応仁の乱など)の影響で中断したこともありましたが、江戸時代には再興され、皇室の伝統として受け継がれてきました。
「新嘗祭」から「勤労感謝の日」への歴史的転換
この「新嘗祭」が、どうして現在の「勤労感謝の日」になったのでしょうか。その背景には、日本の近代化と、第二次世界大戦後のGHQによる占領政策が深く関わっています。
歴史を時系列で追ってみましょう。
【明治時代 (1873年)】
日本が旧暦(太陰太陽暦)から新暦(グレゴリオ暦)に移行する際、明治政府は「新嘗祭」の日を新暦の11月23日に定め、これを皇室の祭典を行う日、すなわち「祭日」としました。当時の祭日は、実質的に国民の休日として機能しており、この時から「11月23日=収穫を祝う国民の祝日」として、人々の生活に広く定着していきました。
【戦後の転換 (1948年)】
第二次世界大戦で日本が敗戦し、GHQ(連合国軍総司令部)の占領下に置かれると、状況は一変します。
GHQは、戦前の日本の軍国主義の精神的支柱であった国家神道と、国民の生活・教育・行事を厳格に切り離す「神道指令(Shinto Directive)」という政策を強力に推進しました。
この方針において、「新嘗祭」という名称の国民の祝日は、皇室の神道儀式と国民の休日が直結しているため、GHQの政策に反するものとみなされたのです。
そこで、次のような措置が取られました。
- まず、国民の祝日としての「新嘗祭」は法的に廃止されました。
- しかし、すでに明治時代から休日として国民の生活に深く根付いていた11月23日を、単なる平日に戻すことは、国民の大きな反発や混乱を招く恐れがありました。
- 最終的な解決策として、皇室は私的な伝統儀式として11月23日に「新嘗祭」を継続することとし、国民の祝日としては、同日(11月23日)に、宗教色を完全に排除した「勤労感謝の日」という全く新しい趣旨の世俗的な祝日を新規に制定したのです。
このように、勤労感謝の日は「新嘗祭が名前を変えただけ(改称)」なのではなく、一度は廃止された「新嘗祭(という祝日)」の日に、戦後の民主主義と労働尊重の新しい価値観を反映させた「勤労感謝の日」が、いわば“上書き”する形で新たに制定された、と解釈するのが最も正確な歴史的経緯のようです。

なぜ「勤労感謝」という名前になった?
では、なぜ「勤労感謝の日」という、収穫祭とは少し毛色の違う名前が選ばれたのでしょうか。これには諸説ありますが、当時のアメリカの祝日が影響したという説が有力視されています。
当時の日本を占領していたアメリカには、この時期に関連する2つの主要な祝日がありました。
- 感謝祭(Thanksgiving Day):
11月の第4木曜日。ピルグリム・ファーザーズが新大陸での収穫を神に感謝したことを起源とする、日本の新嘗祭と非常によく似た「収穫感謝」の祝日。 - レイバーデー(Labor Day):
9月の第1月曜日。労働者の功績を称え、その権利を尊重する「労働者の日」。
GHQの影響下で新しい祝日名を定めるにあたり、日本古来の11月23日の「収穫感謝(Thanksgiving)」の伝統的な時期は維持しつつ、そこに戦後の新しい民主主義の価値観である「労働(Labor)」の尊重という概念を加えました。
この2つを組み合わせた「Labor Thanksgiving Day」こそが、「勤労感謝の日」の直訳的な由来である、という説です。これは、日本の伝統と戦後の新しい価値観を融合させる、当時の世相を反映した絶妙なネーミングであったと言えるかもしれません。
現代の勤労とは。家事や育児も含む?
祝日法が制定された1948年(昭和23年)当時の「勤労」のイメージと、現代社会における「勤労」の姿は、大きく異なっていると私は思います。
当時は、男性が外で働き、女性が家庭を守るというスタイルが一般的だったかもしれませんが、現代では共働き世帯が専業主婦・主夫世帯を上回っていますし、働き方自体も非常に多様化しています。
では、現代において、この祝日の「勤労」とは何を指すのでしょうか?
私は、祝日法の精神である「国民たがひに感謝しあふ」という言葉に立ち返るべきだと思います。つまり、報酬(賃金)の発生の有無にかかわらず、社会やコミュニティ、家庭を支えるためのあらゆる活動が、感謝の対象となる「勤労」に含まれると解釈するのが、現代的かつ正確な理解ではないでしょうか。
現代における「勤労」の多様なカタチ
- 雇用労働:
会社員、公務員、パート、アルバイトなど、賃金を得るすべての仕事。 - 家事労働:
専業主婦・主夫による日々の炊事、洗濯、掃除、買い物などの家庭内労働。
これらがなければ、社会は回りません。 - 育児・介護:
子どもや高齢の家族、障害のある家族をケアする活動。社会の未来と現在を支える、非常に尊い労働です。 - ボランティア活動:
地域社会の美化、防災活動、子ども食堂の運営、NPO活動など、無報酬で行う社会貢献活動。 - 学業:
学生や生徒が、将来の社会を担うために行う学習活動。
これも未来の社会基盤を作るための「勤労」の一種と私は考えます。 - 地域活動:
定年退職後などに、町内会や自治会の役員として地域の運営を支える活動。
特に「家事労働」の価値については、近年よく議論されますよね。もし家事労働を外部のサービスに委託したらどれくらいの費用がかかるか、という試算がなされることもありますが、それ以上に、家庭という社会の最小単位を維持・運営していくための重要な基幹業務です。
ある調査では、共働き世帯の夫婦円満の秘訣として、パートナーへの「感謝の気持ち」や「感謝の言葉」が非常に重要視されているという結果も出ています。
勤労感謝の日は、もしかしたら、会社の上司や同僚に感謝する以上に、毎日当たり前のように家庭を支えてくれている家族(パートナー、親、子も含む)に対して、改めて「いつもありがとう」と伝え合う、絶好の機会なのかもしれません。
社会を支えるすべての人々が、お互いの多様な「勤労」に敬意を払い、感謝し合う日。それが現代における勤労感謝の日の、最も大切な意味だと思います。

感謝祭やメーデーとの違いを解説
「勤労感謝の日」は、その名称や時期から、海外の祝日、特にアメリカの「感謝祭(サンクスギビング)」や、世界的な「メーデー」と混同されたり、比較されたりすることがよくあります。
しかし、これらは似ているようで、その目的やベクトルが全く異なります。その違いを明確に表にまとめてみました。
| 項目 | 勤労感謝の日 (日本) | 感謝祭 (Thanksgiving) (アメリカ) | メーデー (May Day) (世界各国) |
|---|---|---|---|
| 日付 | 11月23日(固定) | 11月の第4木曜日 | 5月1日(多くの国) |
| 起源 | 古代日本の宮中祭祀「新嘗祭」(五穀豊穣の感謝) | 1621年、北米への入植者(ピルグリム)が先住民の助けで得た収穫を神に感謝したことが起源 | 1886年、シカゴの労働者による8時間労働制を求めるストライキが起源 |
| 感謝/主張の対象 | 勤労(労働行為)、生産(成果)、国民相互 | 神の恵み、収穫、家族の絆 | 労働者の権利、団結 |
| 目的・ベクトル | 相互に「感謝する」(内向き・双方向) | 神と家族に「感謝する」(内向き・一方的) | 経営者や社会に「主張する」(外向き・対抗的) |
| 代表的な過ごし方 | 特になし。休日として過ごす。 | 家族・親族が一堂に会し、七面鳥などの決まった料理を囲む。 | 労働組合が中心となり、デモ行進や集会(労働祭)が開催される。 |
「感謝祭(サンクスギビング)」との違い
感謝祭は、前述の通り「11月の収穫感謝」という点で日本の新嘗祭と非常によく似ています。日本の勤労感謝の日制定時に参考にされたとも言われています。
しかし、その過ごし方は大きく異なります。アメリカの感謝祭は、家族・親族が一堂に会する一大イベントであり、日本で言えばお正月やお盆に近い位置づけです。「七面鳥(ターキー)の丸焼き」やパンプキンパイ、クランベリーソースといった決まった料理を大勢で囲むのが伝統です。
感謝の対象も、主に「神の恵み」と「家族の絆」に向けられています。「労働」そのものに焦点を当てているわけではない点が、勤労感謝の日との大きな違いですね。
「メーデー(May Day)」との違い
一方で、メーデー(5月1日)は、同じく「労働」に関連する日ですが、その目的とベクトルは勤労感謝の日とは正反対と言えます。
メーデーは「労働者の祭典(労働祭)」と呼ばれます。その起源は、1886年にアメリカ・シカゴで起きた、労働者たちが「1日8時間労働」を求めて行った大規模なストライキにあります。
歴史的に、労働組合(日本では連合など)が中心となり、労働者が自らの権利(賃上げ、待遇改善、労働環境の向上)を経営者や社会に対して団結して「主張する」日です。
対して、日本の勤労感謝の日は、労働の成果(生産)と労働行為そのものに対し、国民全体が「感謝する」日です。ベクトルは「主張」ではなく「感謝」であり、対立的ではなく協調的な祝日であると言えます。
(参考)よく似た儀式「神嘗祭」との違い
勤労感謝の日の起源である「新嘗祭」を学ぶ上で、しばしば混同されるのが「神嘗祭(かんなめさい)」という、もう一つの重要な宮中祭祀です。
どちらも皇室が行う収穫感謝の儀式であり、非常に重要なものですが、その時期と対象、行為に明確な違いがあります。
神嘗祭(かんなめさい)
- 日付: 10月17日(を中心に行われる)
- 対象: その年に収穫された新穀(初穂)を、まず天照大御神(伊勢神宮)にのみ捧げる儀式です。
- 行為: この儀式では、天皇は新穀を召し上がりません。
新嘗祭(にいなめさい)
- 日付: 11月23日
- 対象: 神嘗祭の後、天神地祇(てんじんちぎ:すべての神々)に新穀を捧げます。
- 行為: 天皇陛下ご自身もその新穀を召し上がります(神人共食)。
簡単に言えば、「神嘗祭」は「まず伊勢神宮の天照大御神に収穫をご報告し、お供えする儀式」、そして「新嘗祭」は「その後、すべての神々にお供えし、天皇自らもそれを頂いて感謝する、本番の収穫祭」というような、一連の流れを構成しています。日本の稲作儀礼において、どちらも欠かすことのできない重要な儀式なんですね。
11月23日 勤労感謝の日、意味や読み方と当日の過ごし方
さて、ここまで「勤労感謝の日」の背景にある意味や歴史を詳しく見てきました。こうした祝日の二重構造(勤労への感謝と、収穫への感謝)を理解した上で、現代の私たちはこの11月23日をどのように過ごすのが有意義なのでしょうか。
体育の日(現・スポーツの日)のように「何か特定のことをしなければならない」という義務はもちろんありません。法律で定められた休日として、日頃の仕事や家事、勉強の疲れを癒やすなど、自由にリラックスして過ごすのが基本です。
その上で、この祝日ならではの「過ごし方」のヒントを、具体的に提案してみたいと思います。

何をする日?おすすめの過ごし方
祝日の意味を知ることで、いつもの休日が少しだけ特別な一日に変わるかもしれません。私がおすすめしたいのは、以下の4つの過ごし方です。
カテゴリ1:周囲の人に「感謝」を伝える
祝日法の「国民たがひに感謝しあふ」という精神に基づく、最も基本的かつ重要な過ごし方です。
対象は、家族(家事・育児・介護への感謝)、職場の同僚や取引先、友人、地域でお世話になっている人々など、日頃自分を支えてくれるすべての人々です。
具体的な方法:
- 言葉で直接伝える:
照れくさいかもしれませんが、家族やパートナーに「いつもありがとう」とシンプルに言葉で伝えるのが一番です。
食卓で、あるいは顔を合わせた時に、一言添えてみてはいかがでしょうか。 - 手紙やメッセージカードを贈る:
普段なかなか口に出して言えない相手には、短い手紙やカードが効果的です。特に、離れて暮らすご両親などに送ると喜ばれるかもしれません。 - 小さなプレゼントを贈る:
感謝の気持ちを込めて、ちょっとしたお菓子や、リラックスグッズ(入浴剤など)、お花などを贈るのも素敵です。 - 家事や育児を代わる:
普段パートナーが主に担当している家事(料理、掃除、洗濯など)や育児を、「今日は私がやるよ」と代わってあげるのも、行動で示す感謝として非常に喜ばれると思います。 - 職場で「サンクスカード」を導入する:
企業や職場であれば、この日をきっかけに、従業員同士が日頃の感謝を伝え合う「サンクスカード」のような仕組みを導入してみるのも良いかもしれません。

カテゴリ2:自分自身を「労う」
祝日法の「勤労をたつとび」という定義に基づき、他者だけでなく、自分自身の労働や日々の努力を認め、労う(ねぎらう)日でもあります。
具体的な方法:
- 自分への「ご褒美」を買う:
日頃頑張っている自分自身に、ちょっと贅沢なスイーツや、欲しかった本、服、趣味の道具などをプレゼントする。 - 心身をリフレッシュする:
日帰り温泉やスパ、マッサージ、整体などで、溜まった疲れを物理的にケアする。 - 「何もしない」贅沢を味わう:
アラームをかけずに眠り、一日中パジャマで過ごす、映画やドラマを一気見する、ひたすら好きな音楽を聴くなど、心の休息を最優先する。 - 趣味の時間に没頭する:
普段忙しくてなかなかできない趣味(手芸、プラモデル、釣り、スポーツなど)に、時間を気にせず没頭する。
勤労感謝の日は、多くの場合、その年(令和の現在)の最後の祝日となります。(12月に祝日はありません)。この後には忙しい年末の繁忙期や、大掃除、新年の準備などが待っています。その前に一度、心と体をしっかり休ませ、英気を養う日として最適です。
カテゴリ3:起源(新嘗祭)にちなんだ「食」を楽しむ
祝日のもう一つの側面である「収穫感謝(新嘗祭)」を意識した過ごし方です。私たちの命と生活が「食」によって支えられていることを再認識する日でもあります。
具体的な方法:
- その年に収穫された「新米」を味わう:
この時期、まさに出回るのが「新米」です。いつもより少し良いお米を買ってきて、炊きたての香りと味をじっくりと味わい、日本の米文化と生産者の方々へ思いを馳せる。 - 旬の「秋の味覚」を堪能する:
お米だけでなく、キノコ類、根菜(大根、人参、ごぼう)、果物(柿、りんご)など、秋に旬を迎える食材を使った料理を楽しむ。 - 新米で造られた日本酒を嗜む:
新米で造られた新酒や、秋から出回る「ひやおろし」などを楽しみ、米の生産者だけでなく、酒造業(杜氏)の人々の勤労にも感謝します。
カテゴリ4:起源(新嘗祭)にちなんだ「場所」に出かける
祝日のルーツである「新嘗祭」や「自然の恵み」に、実際に触れてみる過ごし方です。
具体的な方法:
- 「新嘗祭」の神事を行っている神社に参拝する:
後述する伊勢神宮や明治神宮のほか、お住まいの地域の大きな神社でも、11月23日に新嘗祭の神事を行っている場合があります。
厳かな雰囲気の中で、収穫への感謝を捧げてみましょう。 - 紅葉狩りに出かける:
11月23日は、多くの地域で紅葉の見頃と重なります。
山や公園に出かけ、美しい自然の恵みに感謝する。これは、手軽にできる「収穫感謝」のアクティビティかもしれません。 - 地域の「農業祭」や「収穫祭」に参加する:
この時期、自治体やJA(農協)などが主催する収穫祭や農業フェアが開催されていることもあります。
新鮮な野菜や果物を買ったり、その土地ならではの郷土料理を味わったりするのも楽しい過ごし方です。
伝統的な食べ物はある?新米や赤飯
お正月のおせち料理や、節分の恵方巻、土用の丑の日のうなぎのように、勤労感謝の日に定められた特定の「行事食」というものは、実は存在しません。
前述の「感謝祭」では七面鳥が定番ですが、日本の勤労感謝の日は「これを食べなければならない」という決まりごとはないんですね。
ただし、この祝日の起源が新穀の収穫祭である「新嘗祭」にあることから、この日に食べると非常に意味深く、関連性の高い食べ物は存在します。
最も関連深い食べ物:「新米(お米)」
やはり、最もこの日に関連深い食べ物は、その年の収穫物である「新米」です。新嘗祭そのものが、新米を神様に捧げ、自らも食す儀式だからです。
いつもはパン食という方も、この日ばかりは炊きたての白いご飯を味わってみてはいかがでしょうか。お米一粒一粒に、農家の方々の勤労が詰まっていると感じられるかもしれません。
地域や家庭で食べられるもの:「お餅」や「赤飯」
地域や家庭によっては、新嘗祭の風習の名残として、新米や新しい収穫されたもち米を使って「お餅」をついたり、「赤飯」を炊いたりして、収穫を祝う習慣が残っているところもあります。
赤飯は、日本古来からお祝い事(ハレの日)の食べ物とされてきました。新穀の収穫は、まさに最大級のお祝い事だったわけですね。
(参考)給食や病院食などでの「行事食」
特定の家庭料理はありませんが、学校給食や病院、介護施設などの食事では、勤労感謝の日の献立として、旬の食材を使った特別なメニューが提供されることがあります。
例えば、「栗ごはん、筑前煮、かぶのかにあんかけ、柿」といったメニューや、「きのこご飯、鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたし」などです。
これらは伝統的な行事食というわけではなく、あくまで「秋の収穫(生産)」と「勤労(働く人への感謝)」をテーマにした、栄養士さんたちの工夫が詰まった献立と言えるでしょう。

子どもに説明する簡単な伝え方
「勤労感謝の日って、どんな日?」とお子さんに聞かれた時、どう説明すればよいか悩む方も多いかもしれません。
「勤労」や「生産」、「感謝」といった言葉は、幼い子どもには理解が難しい抽象的な概念です。そこで、子どもに勤労感謝の日を説明する際は、具体的な言葉や人物に置き換える「翻訳」作業がとても重要になります。
年齢別に、説明フレーズの例を考えてみました。
【幼児(3〜5歳)向け】
ポイント:「働く人」を、子どもがイメージできる具体的な職業や人物に置き換える。
説明フレーズ例:
「勤労感謝の日はね、『いつもみんなのために働いてくれる人』に『ありがとう』を言う日だよ」
「例えば、〇〇ちゃん(君)が毎日乗ってるバスの運転手さん。いつも安全に運んでくれて、ありがとう、だね」
「おいしい給食を作ってくれる調理員さん、ありがとう」
「病気やケガを治してくれる、お医者さんや看護師さん、ありがとう」
「みんなが遊ぶおもちゃを作ってくれる工場の人、ありがとう」
「そして、毎日お仕事を頑張っているパパや、おいしいご飯を作ってくれるママにも『いつもありがとう』って感謝する日なんだよ」
【小学生(低学年〜中学年)向け】
ポイント:「新嘗祭」の起源にも少し触れ、ストーリーとして伝える。
説明フレーズ例:
「11月23日は、昔、日本で一番大切なお祭りの日だったんだ。それは『新嘗祭』といって、お米がたくさん獲れたことを神様に『今年もありがとうございました』って感謝するお祭りだったんだよ」
「それが今では、お米を作ってくれる農家さんだけじゃなくて、お魚を獲ってくれる漁師さん、みんなが着る服を作ってくれる人、勉強を教えてくれる先生、お家を守ってくれるお巡りさん...そういう、社会のみんなのために働いているすべての人に『ありがとう』って感謝する日になったんだ。それが『勤労感謝の日』なんだよ」
保育園・幼稚園での主な取り組み
多くの保育園や幼稚園では、この勤労感謝の日に合わせて、子どもたちが「働くこと」や「感謝すること」について学ぶ、様々な機会を設けています。
- 「おしごとクイズ」や絵本の読み聞かせ:
世の中にはどんな仕事があるのか、その仕事が私たちの生活とどう繋がっているのかを、クイズや絵本を通じて楽しく学びます。 - 働く人への「手作りプレゼント」製作:
これが一番多いかもしれません。
子どもたちが、両親や祖父母など、身近で働く人への感謝を込めたプレゼントを作ります。
(例:似顔絵、感謝の言葉をまとめたメッセージブック、「いつもおしごとありがとう」と書かれたメダル、肩たたき券、写真を入れた手作りアルバムなど) - 「職業体験ごっこ(お店屋さんごっこ)」:
子どもたちが八百屋さん、パン屋さん、お花屋さんなどになりきって、働くことの楽しさや大変さを体験します。 - 地域の働く人への訪問:
園によっては、近所の警察署、消防署、郵便局、スーパーマーケットなどを訪問し、子どもたちが作ったプレゼントを渡して「いつもありがとう」と直接伝える活動を行うこともあります。
こうした体験を通じて、子どもたちは自分が社会の多くの人々に支えられていることを知り、感謝の気持ちを育んでいくんですね。
伊勢神宮などで続く新嘗祭の儀式
最後に、国民の祝日「勤労感謝の日」が制定された一方で、その起源である「新嘗祭」という儀式が消滅したわけではない、という点に触れたいと思います。
「新嘗祭」は、今もなお日本の大切な伝統文化として、皇居、そして全国の神社で厳かに続けられています。

皇居での儀式(宮中祭祀)
天皇陛下は現在も、毎年11月23日に、皇居内にある「神嘉殿(しんかでん)」という建物で、新嘗祭の儀式を執り行われます。
これは夕方から夜にかけて行われる、非常に古式ゆかしく厳かな儀式です。天皇陛下は、その年に収穫された新穀(お米など)を天照大御神(あまてらすおおみかみ)をはじめとする天神地祇(すべての神々)に供え、五穀豊穣への感謝を捧げられます。
そして、神々に捧げた新穀を、ご自身も召し上がります。これは「神人共食(しんじんきょうしょく)」と呼ばれ、神様と同じものを食べることで、神様との結びつきを強め、その力を頂くという意味合いがあります。
(ちなみに、この重要な儀式に臨むため、前日の11月22日には天皇の霊を強化するとされる「鎮魂祭(ちんこんさい)」という、こちらも非常に古い儀式が行われるそうです。)
伊勢神宮での儀式
皇室と関わりの深い、三重県の伊勢神宮でも、新嘗祭は非常に重要な儀式として斎行されます。
10月の「神嘗祭(かんなめさい)」が、その年の初穂を天照大御神に捧げる儀式であるのに対し、11月23日の新嘗祭では、新穀をはじめとする多くの神饌(しんせん=お供え物)を「大御饌(おおみけ)」として神々に捧げ、収穫への感謝を捧げます。
伊勢神宮にとっては、年間行事の中でも最も重要だと位置付けられる特別な儀式の一つです。
明治神宮や全国の神社での儀式
東京都心の明治神宮でも、11月23日には新嘗祭が行われます。
明治神宮の名物となっているのが、全国から奉納された野菜や果物などで作られた「宝船(たからぶね)」の展示です。見事な野菜で組み上げられた大きな宝船は圧巻で、都会の中心で収穫感謝の伝統に触れられる貴重な機会として、多くの参拝者が訪れます。
また、伊勢神宮や明治神宮だけでなく、全国の多くの神社(特に「〇〇神宮」や「〇〇大社」とつくような大きな神社や、農業と関わりの深い「稲荷神社」など)でも、11月23日には新嘗祭の神事が斎行されます。
一部の地域や神社では、新米から造った「どぶろく(濁り酒)」を神に供え、参拝者にも振る舞う「どぶろく祭り」も、この新嘗祭の時期に合わせて開催されることがあります。
神事の参拝・見学について
神社での神事(特に皇居や伊勢神宮の重要な儀式)は、一般の参拝や見学が厳しく制限される場合がほとんどです。お出かけの際は、必ず各神社の公式サイトなどで、一般参拝者がどこまで立ち入ることができるのか、最新の情報を確認するようにしてください。
11月23日 勤労感謝の日、意味や読み方の総括
ここでは、11月23日の勤労感謝の日に関する情報を網羅的に解説してきました。
最後に、この記事の要点をまとめておさらいします。
単に「働く人、お疲れ様!ありがとう!」という日だと思っていた「勤労感謝の日」が、実は日本の稲作文化の根幹である「新嘗祭」という収穫感謝の伝統と、戦後の民主主義を象徴する「勤労(家事や育児なども含む)への相互感謝」という、二重の深い意味が込められた祝日であることがお分かりいただけたかと思います。
「勤労感謝の日」の読み方は「きんろうかんしゃのひ」。その日は、11月23日に固定されています。
今年の11月23日は、休日としてゆっくりと心身を休める(自分を労う)だけでなく、その起源である「収穫(生産)」の恵み、つまり美味しい新米や秋の味覚に感謝し、同時に、家族や同僚、友人など、自分の生活を支えてくれている身近な人々の「勤労」に対し、改めて「いつもありがとう」と感謝を伝えてみるのはいかがでしょうか。
それこそが、祝日法に込められた「国民たがひに感謝しあふ」という精神を実践する、最も有意義な過ごし方の一つだと私は思います。