大晦日の夜、NHKで「第九」の荘厳なメロディを聴くと、「ああ、今年も終わりだな」と一年の感慨にふける方は多いのではないでしょうか。私もその一人です。リビングで家族団らんの中、あるいは一人で静かに、あの「歓喜の歌」が聴こえてくると、不思議と背筋が伸びるような気持ちになります。
ただ、Eテレの放送予定や放送時間を知りたいという差し迫ったニーズと、そもそもなぜ大晦日に第九を放送するのか、その歴史が気になるという知的好奇心。さらには、今年2025年のN響(NHK交響楽団)のコンサートに一度は行ってみたいので、チケット情報や無料の観覧募集があるか探している方など、様々な情報が混在していて、求めている答えにたどり着きにくいことがありますよね。
特に、多くの方が少し混乱しがちなのが、大晦日にEテレで「放送」されるものと、毎年12月中にNHKホールでN響が「公演」する有料コンサートは、密接に関連しているようでいて、実は別物だという点です。
この記事では、年末の風物詩であるNHKの「第九」について、皆さんがお持ちの様々な疑問—「いつ放送?」「どうやって観に行く?」「なぜ始まった?」—そのすべてに、分かりやすくお答えしていきます。2024年の放送から、2025年のコンサートチケット情報、そして「年末の第九」が日本の文化としていつから始まったのか、その深い歴史的背景まで、詳しく解説していきます。
- 2024年大晦日のEテレ・ラジオ(FM)の詳しい放送内容
- 2025年に開催されるN響「第九」コンサートのチケット情報と発売日
- よく検索される「無料の観覧募集」が実際にあるのかどうか
- なぜ日本で年末に第九が演奏されるのか、その歴史とNHKの役割
本記事の内容
NHKの大晦日に見る第9 - 2024年の放送内容
まずは、皆さんが一番気になっているであろう「今夜」の情報、2024年の大晦日(12月31日)の放送予定です。「紅白歌合戦」がNHK総合で華やかに放送されるその裏で、Eテレでは毎年恒例となっている「N響『第9』演奏会」が放送されます。2024年の詳しい放送時間や、その放送がいつどこで収録されたものなのか、詳細を見ていきましょう。

Eテレの放送時間 2024年
2024年の大晦日、NHK Eテレ(教育テレビ)で放送された「第九」の詳細は以下の通りです。一年を静かに、荘厳な音楽で締めくくりたい方には、こちらの番組がぴったりです。
2024年 Eテレ「N響『第9』演奏会」放送内容
- 放送日時:
2024年12月31日(火) 20:00~ - 放送局:
NHK Eテレ

ここで一つ、大切なポイントがあります。この放送は、12月31日の大晦日に行われる「生放送」ではありません。これは、事前に収録された演奏会が放送されるものです。
2024年に放送された演奏会は、2024年12月18日(水)にNHKホールで収録された「N響(NHK交響楽団)ベートーヴェン『第9』演奏会」です。つまり、私たちは約2週間前に行われた、熱気あふれるコンサートの模様を、最高の音質と画質で楽しむことができるわけです。
紅白歌合戦との「棲み分け」
ご存知の通り、同じ時間帯、NHK総合では「紅白歌合戦」が放送されています。
これは、NHKが日本の大晦日の夜に対して、二つの異なる「過ごし方」を提案していると言えます。
- NHK総合:
その年を代表するアーティストたちと、華やかに、賑やかに一年を送り出したい層へ。 - NHK Eテレ:
ベートーヴェンの普遍的な名曲と共に、荘厳に、静かに一年を振り返り、新しい年を迎えたい層へ。
どちらが良いというわけではなく、その時の自分の気分や家族の希望に合わせてチャンネルを選べるというのは、とても贅沢なことだと私は思います。
ラジオ(FM)の放送予定
「大晦日はテレビのチャンネル権が家族にあって…」という方や、「年末は忙しくてテレビの前に座っていられない」という方もいらっしゃるかもしれません。
実は、Eテレでの放送よりも先に、ラジオのNHK-FMで同じ演奏が放送されます。テレビよりも高音質で、純粋に「音」に集中したいクラシックファンの方には、こちらのFM放送がおすすめです。
2024年 NHK-FM「N響『第9』演奏会」放送内容
- 放送日時:
2024年12月25日(水) 19:30~ - 放送局:
NHK-FM
放送日はなんとクリスマス。聖なる夜に聴く「第九」というのも、また格別な趣がありました。大晦日の喧騒の前に、一足早く一年を振り返る静かな時間を持つのも良いかもしれません。
家事をしながら、あるいは部屋の明かりを少し暗くして、じっくりと耳を傾ける…。そんな過ごし方も素敵だと思います。

2024年の指揮者とソリスト
さて、2024年の大晦日に放送された「第九」(12月18日収録)は、どのようなメンバーで演奏されたのでしょうか。毎年、指揮者やソリストの顔ぶれが変わるのも、N響「第九」の大きな楽しみの一つです。
2024年は、世界最高峰の歌劇場やオーケストラで活躍する、まさに豪華絢爛な布陣となりました。
2024年 N響「第9」演奏会(12月18日収録) キャスト
| 役割 | 氏名 |
|---|---|
| 指揮 | ファビオ・ルイージ (Fabio Luisi) |
| 管弦楽 | NHK交響楽団 |
| ソプラノ | ヘンリエッテ・ボンデ・ハンセン (Henriette Bonde-Hansen) |
| メゾ・ソプラノ | 藤村 実穂子 (Mihoko Fujimura) |
| テノール | ステュアート・スケルトン (Stuart Skelton) |
| バス・バリトン | トマス・トマソン (Thomas Tomasson) |
| 合唱 | 新国立劇場合唱団 |
指揮のファビオ・ルイージさんは、現在はN響の首席指揮者を務められており、その情熱的かつ緻密な演奏解釈で、日本の聴衆からも絶大な人気を誇るマエストロです。N響との信頼関係も深く、最高の「第九」を引き出してくれること間違いなしです。
ソリスト陣も、メゾ・ソプラノの藤村実穂子さんをはじめ、ワーグナー作品などで世界的に高い評価を受ける方々が集結しました。そして、合唱は日本が誇るプロフェッショナル合唱団、新国立劇場合唱団です。
これ以上ないほどのメンバーによる「歓喜の歌」を、自宅にいながらにして楽しめる。これは大晦日の夜の、本当に贅沢な時間だと思います。

N響以外の第九コンサート 2024年
「年末の第九」は、もはやN響だけの専売特許ではありません。この時期、日本全国の主要なオーケストラが、それぞれの「第九」公演を開催しました。
もし「年内に、なんとしても“生”で第九が聴きたい!」と思っても、N響のチケット(有料公演です)が取れなかった…。そんな場合でも、諦めるのはまだ早いです。お近くのオーケストラが、素晴らしい公演を予定しているかもしれません。
2024年 主な「第九」公演(N響以外)
あくまで一例ですが、首都圏や関西圏でも多くの公演がありました。
- 東京交響楽団:
12月28日・29日 (サントリーホール) / 指揮: ジョナサン・ノット - 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団:
12月28日 (東京文化会館) / 指揮: 藤岡 幸夫 - 東京都交響楽団:
12月24日・25日 (東京文化会館), 26日 (サントリーホール) / 指揮: 小泉和裕 - 大阪フィルハーモニー交響楽団:
12月29日・30日 (フェスティバルホール) / 指揮: ユベール・スダーン
これらはほんの一例にすぎません。全国各地で「第九」は演奏されており、オーケストラや指揮者、ソリストによって、その演奏の解釈は千差万別です。「第九」は、それだけ多くの音楽家を惹きつけ、また聴衆を魅了し続ける「特別な曲」なのだと言えます。
ご自身の地元のオーケストラがどんな「第九」を演奏したのか、情報をチェックしてみるのも年末の楽しみの一つかもしれませんね。
なぜ大晦日に第九を放送するのか
ヨーロッパでは「第九」は、例えば「ベルリンの壁」崩壊後の記念演奏会のように、何か特別な式典などで演奏されることはあっても、「年末の定番曲」というイメージはあまりないそうです。
では、なぜ日本では「年末=第九」という文化がこれほどまでに定着したのでしょうか。そして、なぜNHKは大晦日の夜に「第九」を放送し続けるのでしょうか。
これには諸説ありますが、私は大きく二つの歴史的な背景が深く関わっていると考えています。そして、その両方にNHK(およびその前身)が関わっているのです。

起源説1: N響(新交響楽団)の伝統
最も有力な理由の一つが、N響の歴史そのものにあります。N響の前身である新交響楽団が、1938年(昭和13年)から、毎年12月に「第九」の公演を行うようになりました。
当時はオーケストラの運営も苦しく、年末の時期に人気の高い「第九」を演奏することで、いわば「ボーナス」的な収入を得て楽団の財政を支える、といった現実的な側面もあったと言われています。
理由はどうあれ、この「12月の第九」が戦前から続く伝統としてクラシック音楽界に根付き、他のオーケストラも追随したことで、「12月といえば第九」という図式が確立されていきました。
起源説2: 学徒出陣と戦後の「鎮魂」
もう一つ、非常に重く、そして感動的な説があります。それは、第二次世界大戦中の出来事に由来します。
1943年(昭和18年)12月、戦局が悪化する中、卒業を繰り上げて戦地へ赴くことになった学生たちの壮行会(いわゆる学徒出陣)が各地で開かれました。その際、東京音楽学校(現在の東京藝術大学)の壮行演奏会で、「第九」の「歓喜の歌」が演奏されたと記録されています。
そして戦後。奇跡的に生還した学生たちが、戦地で亡くなった仲間たちの「追悼」と「鎮魂」の想いを込めて、再び12月に「第九」を演奏するようになった、という説です。
日本における「第九」の特別な意味
これらの起源からわかるように、日本で年末に演奏される「第九」は、原詩のシラーが込めた「すべての人類は兄弟となる」という「歓喜 (Ode to Joy)」のメッセージだけにとどまりません。
そこには、戦争という困難な時代を乗り越えた記憶、亡くなった人々への「鎮魂」、そして二度とあのような時代に戻ってはならないという「平和への切なる祈り」という、非常に重層的で、日本独自の文脈が込められているのです。
一年の終わりにこの曲を聴くことは、私たち日本人にとって、単に音楽を楽しむだけでなく、過去を清算し、次の年の幸福と平和を祈る、国民的な「儀式」としての側面を強く持っているのだと私は思います。
NHKの大晦日の第9 - コンサートと歴史
大晦日の放送を見ていると、「あの荘厳な響きを、いつかはNHKホールで生で聴いてみたい」…そう思う方も多いのではないでしょうか。テレビやラジオで受動的に楽しむのとは全く違う、ホール全体が震えるような感動がそこにはあります。
このセクションでは、来年2025年のN響「第九」コンサート情報や、多くの人が疑問に思う「無料観覧」の有無、そしてNHKと「第九」の深い関係の歴史について、さらに詳しく掘り下げていきます。

2025年のコンサート情報
「今年こそは生で!」と考えている方のために、2025年12月に開催予定の、N響「第九」コンサートの概要です。
ここで改めて確認ですが、2024年の大晦日に放送されたのは「2024年12月」の公演です。したがって、2025年の大晦日に放送されるのは、これからご紹介する「2025年12月」の公演の収録ということになります。
2025年 N響ベートーヴェン「第9」演奏会(予定)
- 公演日:
2025年12月20日(土), 21日(日), 24日(水) 他 ※例年の傾向です - 会場:
NHKホール (渋谷) - 指揮:
レナード・スラットキン (Leonard Slatkin) - ソリスト:
中村 恵理(S), 藤村 実穂子(Ms), 福井 敬(T), 甲斐 栄次郎(Br) - 合唱:
新国立劇場合唱団
2025年は、指揮者がアメリカの巨匠、レナード・スラットキンさんに変わります。ソリストも、藤村実穂子さん以外は2024年とは異なる顔ぶれです。特にテノールの福井敬さん、バリトンの甲斐栄次郎さんは日本を代表する素晴らしい歌手ですね。
指揮者やソリストが変われば、同じ「第九」でも全く違った表情を見せます。毎年通って、その年の「第九」を聴き比べるというのが、多くのクラシックファンにとって年末の大きな楽しみとなっているのです。
チケット発売日と料金
このN響「第九」コンサートは、日本で最もチケットが取りにくい公演の一つと言っても過言ではありません。情報を早めに、正確にキャッチしておくことが何よりも重要です。
2025年公演の一般発売は、2025年9月22日(月)からすでに開始されています。
料金は席種によって幅がありますが、おおよその目安は以下の通りです。
- S席: 17,000円
- A席: 14,500円
- B席: 11,500円
- C席: 8,500円
- D席: 5,000円
また、29歳以下の方を対象とした割引(U-29)なども用意されているようです。若い方にもぜひ生のオーケストラに触れてほしい、という思いが感じられますね。
チケットに関する最重要注意事項
ここに記載したチケットの発売状況や料金、割引の詳細は、あくまで記事執筆時点での目安であり、変更になる可能性があります。また、人気の公演であるため、一般発売開始後すぐに売り切れてしまう席種も多いと予想されます。
チケットの最新の残席状況、正確な料金、購入方法については、必ず「N響ガイド (0570-02-9502)」や、NHK交響楽団の公式サイトで直接ご確認ください。(出典:NHK交響楽団 公式サイト)
近年はチケットの不正転売も問題になっています。公式サイトや正規のプレイガイド以外からの購入は、トラブルの原因となりますので十分にご注意ください。
無料の観覧募集はある?
大晦日に放送されるN響のメイン公演「ベートーヴェン『第9』演奏会」の無料観覧募集はありません。
これは、前述の通りS席が17,000円にもなる、N響にとって一年で最も重要な高額な「有料チケット公演」です。
では、なぜ「観覧募集」と検索されるのでしょうか。 これは、NHKが「第九」とは別に、「うたコン」や「NHK音楽祭」の一部公演、あるいは地方での小規模なアンサンブルコンサートなどで、視聴者を対象とした「観覧者募集(無料招待)」を頻繁に行っているためだと思われます。 そのイメージから、「大晦日の第九も、もしかしたら無料の公開収録があるのでは?」と期待される方が多いのではないかと、私は推測しています。
残念ながら、この公演に関しては、生で鑑賞するためには必ずご自身で有料のチケットを購入する必要があります。大晦日の放送を観て「今年こそは」と思われた方は、ぜひ来年の秋(9月頃)のチケット発売情報にご注目ください。
NHK第九はいつから始まった?
この「年末の第九」という日本の大切な文化は、いつから始まったのでしょうか。
N響(前身の新交響楽団)が12月に「第九」を演奏し始めたのは、先述の通り1938年(昭和13年)からという、80年以上の非常に長い歴史があります。
一方で、Eテレ(当時は教育テレビ)が、これを「大晦日の夜」という特別な時間帯に放送するようになったのが、正確に何年からなのか、はっきりとした資料は見当たりませんでした。しかし、これが長年続く「恒例」の番組であり、多くの日本人が「年末の風物詩」として認識していることは間違いありません。
「年末の第九」文化におけるNHKの二重の役割
私は、この日本独自の文化において、NHKは二つの中心的な役割を担ってきたと考えています。
- 伝統の「創始者」として:
N響(新交響楽団)が1938年から12月定期公演を始めたことで、音楽界における「年末=第九」の習慣を創り出しました。 - 伝統の「普及者」として:
Eテレという全国的な放送網を使い、大晦日の夜という最も象徴的な時間帯に「N響の第九」を毎年放送することで、この習慣を一部のクラシックファンから「日本の年末の風物詩」へと昇華させました。
もしテレビというメディアがなければ、「第九」がこれほどまでに国民的な行事として定着することはなかったかもしれません。その意味で、NHKと「第九」は、切っても切れない深い関係にあるんですね。

元旦はウィーン・フィル
さて、NHKは「一年の終わり」だけでなく、「一年の始まり」にも素晴らしいクラシック音楽を届けてくれます。
「第九」がベートーヴェンの荘厳な響きで一年を締めくくる曲であるのに対し、新年を祝う華やかな音楽の代表格が「ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート」です。
2026年1月1日(元旦)には、EテレとFMで「ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート2026」が放送されます。
ヨハン・シュトラウス一家の心躍るようなワルツやポルカ(『美しく青きドナウ』など)を、クラシック音楽の殿堂であるウィーン楽友協会ホールから生中継(時差の関係で日本時間は夜になりますが)で楽しめます。
大晦日はEテレで「第九」を聴いて荘厳に一年を振り返り、元旦は同じくEテレでウィーン・フィルの華やかなワルツを聴いて新年を祝う…。こんなクラシック三昧の年末年始も、とても知的で豊かな過ごし方だと私は思います。こうした過ごし方も、日本のお正月の伝統的な過ごし方とはまた違った、現代的な魅力の一つかもしれませんね。

NHKの大晦日の第9 放送と歴史まとめ
最後に、この記事のポイントをもう一度整理します。
NHK「第九」まとめ
- 2024年の内容:
大晦日12月31日(火) 20:00~の「Eテレ」放送、または一足早く12月25日(水) 19:30~の「NHK-FM」放送で。指揮はファビオ・ルイージさん。 - 2025年に「観に行く」場合:
12月にNHKホールで開催される有料公演のチケットが必要です。無料の観覧募集はありません。2025年の指揮はレナード・スラットキンさんです。 - その「歴史」:
N響の1938年からの伝統と、戦争の「鎮魂・平和への祈り」という日本独自の背景が重なっています。
単なる年末のBGMとして聴き流してしまうこともできますが、その背景にある深い歴史や、多くの音楽家たちの情熱に思いを馳せながら聴くと、2024年の大晦日に聴く「第九」は、きっといつもとは違った、特別な響きを持ってあなたの心に届くはずです。
一年の様々な出来事に感謝し、新しい年が平和で希望に満ちたものになるように祈りを込めて。そんな時間のお供に、NHKの「第九」は最適な音楽かもしれませんね。